大学時代に培った「問い」と向き合う力を手に自分らしいキャリアを切り拓く
第一生命保険株式会社 執行役員 井口 早苗さん
2025/04/07
立教卒業生のWork & Life
OVERVIEW
創業以来、「お客さま第一主義」を掲げ、人々の暮らしに寄り添い続ける第一生命保険。「入社の動機は、女性が活躍できる職場で長く働きたかったからです。でも、ここまで長くいるとは思いませんでした」と笑みを浮かべる井口早苗さん。大学卒業後に一般職として入社し、キャリアを積み重ねて2024年に執行役員へ。現在は3部署の責任者として、約1200人の社員を束ねている。

「観光学科は珍しいし、面白そう」
井口さんが立教大学社会学部観光学科に入学した理由は、そんなシンプルな好奇心だった。その直感が正しかったことを証明してくれたのは、後に観光学部※初代学部長を務める岡本伸之教授(元 名誉教授)の授業だったという。
※観光学部:1998年新座キャンパスに設置。
「外資系ホテルの事業展開や施設のオペレーション、日本の宿泊業との比較などの話が面白くて。『そうか、観光もビジネスなんだ』と一気に見方が変わりました。一言一句聞き逃すまいと、毎回前の席で授業に臨んでいましたね」
観光の持つビジネス的側面に強い関心を抱いた井口さんは、観光心理学を確立した存在として知られる前田勇教授(現名誉教授)のゼミに所属。人々の観光行動や消費行動の裏側にある心理について掘り下げて学んだ。
「前田先生は観光分野にとどまらず、マーケティングに生かせる行動心理学に関しても専門的な知見をお持ちでした。企業を訪問して販売戦略を学ぶ機会もあり、多くの刺激を受けたことを覚えています」
学業以外で力を注いだことは、4年間続けた塾講師のアルバイト。
「中学受験専門の塾で、受け持ちの生徒3人を毎日つきっきりで教えていたんです。それぞれの進度に応じて宿題を用意したり、一人一人に合った声かけを意識したり。大学の勉強と同じくらい、本気で向き合っていましたね」
卒業論文のテーマは、「兄弟の関係性が家庭の購買行動に与える影響」。塾の生徒たちと接する中で、兄弟姉妹の構成による個性の違いがあるのではないか、と感じたことがきっかけになった。
「先生が『これはすごく面白いテーマになるよ』と言ってくださったのがうれしくて。立教小学校やアルバイト先の塾でアンケートに協力してもらいました。前田ゼミでは全員の卒業論文が個別に製本されるのですが、その思い出の1冊は今でも大切に持っています」
井口さんが立教大学社会学部観光学科に入学した理由は、そんなシンプルな好奇心だった。その直感が正しかったことを証明してくれたのは、後に観光学部※初代学部長を務める岡本伸之教授(元 名誉教授)の授業だったという。
※観光学部:1998年新座キャンパスに設置。
「外資系ホテルの事業展開や施設のオペレーション、日本の宿泊業との比較などの話が面白くて。『そうか、観光もビジネスなんだ』と一気に見方が変わりました。一言一句聞き逃すまいと、毎回前の席で授業に臨んでいましたね」
観光の持つビジネス的側面に強い関心を抱いた井口さんは、観光心理学を確立した存在として知られる前田勇教授(現名誉教授)のゼミに所属。人々の観光行動や消費行動の裏側にある心理について掘り下げて学んだ。
「前田先生は観光分野にとどまらず、マーケティングに生かせる行動心理学に関しても専門的な知見をお持ちでした。企業を訪問して販売戦略を学ぶ機会もあり、多くの刺激を受けたことを覚えています」
学業以外で力を注いだことは、4年間続けた塾講師のアルバイト。
「中学受験専門の塾で、受け持ちの生徒3人を毎日つきっきりで教えていたんです。それぞれの進度に応じて宿題を用意したり、一人一人に合った声かけを意識したり。大学の勉強と同じくらい、本気で向き合っていましたね」
卒業論文のテーマは、「兄弟の関係性が家庭の購買行動に与える影響」。塾の生徒たちと接する中で、兄弟姉妹の構成による個性の違いがあるのではないか、と感じたことがきっかけになった。
「先生が『これはすごく面白いテーマになるよ』と言ってくださったのがうれしくて。立教小学校やアルバイト先の塾でアンケートに協力してもらいました。前田ゼミでは全員の卒業論文が個別に製本されるのですが、その思い出の1冊は今でも大切に持っています」

今も大切にしている卒業論文。前田ゼミでは卒業論文がハードカバーに製本された

卒業式当日。前田教授(後列右)とゼミの仲間と一緒に。井口さんは前田教授の隣
学生一人一人との対話を重んじていたという前田教授は、「常に問いを投げかける方でした」と井口さん。
「『こうした方がいい』と言われたことは一度もなくて。『で、どうする?』『これはどういうこと?』と何度も聞かれるんです。今思えばその繰り返しの中で、自分の頭で考え、表現する力が鍛えられたように思います」
「『こうした方がいい』と言われたことは一度もなくて。『で、どうする?』『これはどういうこと?』と何度も聞かれるんです。今思えばその繰り返しの中で、自分の頭で考え、表現する力が鍛えられたように思います」
自分のライフスタイルを貫きながら執行役員へ
井口さんが就職活動をした当時は、結婚・出産で退職するのが当たり前とされていた時代ではあったが、母親の働く姿を見て、「腰を据えて働こう」と決めていた。女性が活躍できる職場は限られていたが、そんな母の勤め先が他ならぬ第一生命だった。
「『いい会社だから受けてみたら?』と勧められて。社員の約9割が女性だったため、ここならやっていけるかもしれないと思ったのです」
一般職で入社し、25年間在籍したのが営業活動を支援するリーテイル部門。支援用の資料作成、販売システム開発、キャンペーン活動、営業社員の教育など幅広い業務に携わり、結婚後、2回の産休・育休を経て働き続ける。
「保育園のお迎えがあるので退勤前は慌ただしくて、『夕方になるといつも走り回っている』と社内で有名でしたね(笑)」
「『いい会社だから受けてみたら?』と勧められて。社員の約9割が女性だったため、ここならやっていけるかもしれないと思ったのです」
一般職で入社し、25年間在籍したのが営業活動を支援するリーテイル部門。支援用の資料作成、販売システム開発、キャンペーン活動、営業社員の教育など幅広い業務に携わり、結婚後、2回の産休・育休を経て働き続ける。
「保育園のお迎えがあるので退勤前は慌ただしくて、『夕方になるといつも走り回っている』と社内で有名でしたね(笑)」
自分の力量を超えるような仕事や、苦手な仕事にも逃げずにぶつかっていく
子育てに加えて両親の介護もしながら仕事を続け、次第に責任ある仕事を任されるようになり、マネジャーになったのは入社22年目。「周りと比べるとかなり遅かった」と振り返るが、ここで初めて重責にもがいた日々が、今につながる道を切り拓いた。
「予算とメンバーを任され、全国規模のプロジェクトの采配を振る。自分の力量を超えるような仕事に挑んだ経験が、一回りも二回りも成長させてくれました。また、『嫌なことほど率先して取り組む』を心掛け始めたのもこの頃です。逃げずに真正面からぶつかった方が、意外と乗り切れるんですよ」
その4年後には所属部署の担当部長に昇進し、次いで人事部のダイバーシティ&インクルージョン推進室長に。多様な働き方をしてきた自身の経験を生かし、女性活躍推進を中心に組織風土の改革に着手した後、人事部長として、より広範な職場改革に取り組んだ。
そして2024年、執行役員に就任。第一生命では2009年に一般職と総合職が基幹職に統合され、その中に国内外の転勤がある「グローバルコース」と、地域を限定して働く「エリアコース」の2種類がある。「グローバルコース」で職位を上げていく人が大半の中、井口さんは人事部長の時もエリアコースのままだった。
「家族や自分が暮らす地域が大事でしたし、それで選ばれないなら仕方ないと考えていました。社員には、私のようなキャリアもあるのかと感じてもらえたらと思います」
「予算とメンバーを任され、全国規模のプロジェクトの采配を振る。自分の力量を超えるような仕事に挑んだ経験が、一回りも二回りも成長させてくれました。また、『嫌なことほど率先して取り組む』を心掛け始めたのもこの頃です。逃げずに真正面からぶつかった方が、意外と乗り切れるんですよ」
その4年後には所属部署の担当部長に昇進し、次いで人事部のダイバーシティ&インクルージョン推進室長に。多様な働き方をしてきた自身の経験を生かし、女性活躍推進を中心に組織風土の改革に着手した後、人事部長として、より広範な職場改革に取り組んだ。
そして2024年、執行役員に就任。第一生命では2009年に一般職と総合職が基幹職に統合され、その中に国内外の転勤がある「グローバルコース」と、地域を限定して働く「エリアコース」の2種類がある。「グローバルコース」で職位を上げていく人が大半の中、井口さんは人事部長の時もエリアコースのままだった。
「家族や自分が暮らす地域が大事でしたし、それで選ばれないなら仕方ないと考えていました。社員には、私のようなキャリアもあるのかと感じてもらえたらと思います」
「目的」なのか「手段」なのか本質を見失わない
現在の管轄は、契約の引受・審査を担当する契約医務部、加入後の収納保全を担う契約サービス部、保険金・給付金の支払いを行う保険金部。計1200人の社員が働く3部署は、「契約をお預かりするお客さまの一番近くにいる部署」だと井口さんは言う。
「その点では、営業支援を通してお客さま視点に立ち続けてきた経験が生かせると思っています。お客さまが見るとどう思うのか、サービスや手続きの内容は分かりやすいか。各セクションの社員と対話しながら問いかけるのが、今の私の役割ですね」
大切にしているのは、「リスペクトを持つことと、自分からも積極的に話しかけること。そうすると、社員も徐々に本音で語ってくれるので」。前田教授との対話や塾の生徒への声かけともつながるエピソードだが、他にも大学時代のさまざまな学びが今に生きている。
「例えば、アンケートを集めるのは『手段』であり、『目的』はお客さまに満足していただくことです。でも、この『手段』と『目的』の逆転がしばしば起こるため、常に基本に立ち返らないといけません。だから私の口癖は『そもそも』なのですが、これはもともと前田先生の口癖でした。『目的』なのか『手段』なのか。本質を見失わないための思考の整理法も、先生から教わったように思います」
全力でゼミに打ち込んだ経験から、人事部長を務めていた際も、採用面接では学生には「一番勉強したことは何?」と聞いていたという井口さん。
「自分の興味を深く追究した学生は魅力的に感じますし、そういう人は会社に入っても成長が早いです。これも『目的』と『手段』の話と同じで、無理矢理では意味がなくて。知りたいから本を読む、知りたいから誰かに会いに行く。その繰り返しで知識を深め、自分の幅を広げる経験を、ぜひ大学時代にしてほしいと思います」
「その点では、営業支援を通してお客さま視点に立ち続けてきた経験が生かせると思っています。お客さまが見るとどう思うのか、サービスや手続きの内容は分かりやすいか。各セクションの社員と対話しながら問いかけるのが、今の私の役割ですね」
大切にしているのは、「リスペクトを持つことと、自分からも積極的に話しかけること。そうすると、社員も徐々に本音で語ってくれるので」。前田教授との対話や塾の生徒への声かけともつながるエピソードだが、他にも大学時代のさまざまな学びが今に生きている。
「例えば、アンケートを集めるのは『手段』であり、『目的』はお客さまに満足していただくことです。でも、この『手段』と『目的』の逆転がしばしば起こるため、常に基本に立ち返らないといけません。だから私の口癖は『そもそも』なのですが、これはもともと前田先生の口癖でした。『目的』なのか『手段』なのか。本質を見失わないための思考の整理法も、先生から教わったように思います」
全力でゼミに打ち込んだ経験から、人事部長を務めていた際も、採用面接では学生には「一番勉強したことは何?」と聞いていたという井口さん。
「自分の興味を深く追究した学生は魅力的に感じますし、そういう人は会社に入っても成長が早いです。これも『目的』と『手段』の話と同じで、無理矢理では意味がなくて。知りたいから本を読む、知りたいから誰かに会いに行く。その繰り返しで知識を深め、自分の幅を広げる経験を、ぜひ大学時代にしてほしいと思います」
※本記事は季刊「立教」271号(2025年2月発行)をもとに再構成したものです。バックナンバーの購入や定期購読のお申し込みはこちら
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。
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映画監督・脚本家 鶴岡 慧子さん
プロフィール
PROFILE
井口 早苗
1993年 社会学部観光学科(当時)卒業
千葉県出身。大学卒業後、第一生命保険相互会社(現 第一生命保険株式会社)入社。リーテイル部門の生涯設計教育部にて営業職員チャネル支援に従事。2009年より同部署のアシスタントマネジャー、2014年よりマネジャーを務める。生涯設計教育部部長、ダイバーシティ&インクルージョン推進室長、人事部長を歴任した後、2024年4月に執行役員に就任。