大学と企業が対話を重ねながら「人生の構想力」を備えた学生を共に育む

郭洋春 総長 × 佐々木宏 キャリアセンター部長

2019/05/23

キャリアの立教

OVERVIEW

郭洋春総長と佐々木宏キャリアセンター部長(経営学部教授)が、AI時代に求められるキャリア教育について対談しました。

新たな価値観を個人、大学、企業が共有する時代

総長 いま社会は「知識創造型社会」と言われるように、人間の知性や理性が導き出す新たな価値が、社会にイノベーションをもたらす原動力になりうる時代へと変化しています。つまり、これまで日本が大切にしてきた「ものづくり」といった既存の価値を共存させつつ、人はどう生きるべきか、また、どのような社会をつくっていくべきかを、個人、大学、企業がそれぞれの立場で追求することを求められています。

佐々木 私も同感です。いま日本は、超高齢化社会、財政、自然災害など、様々な課題を抱えており、サステナビリティの確保も急務となっています。しかし状況は複雑で、解決に至る道筋は容易ではありません。そこで重要になるのは、総長が指摘されたように、人はどう生きるべきかを考えると共に、自分に何ができるのかを真摯に問い、いかに行動していくかということだと思います。

総長 サステナブルな社会にしていくために我々に課せられた使命は、自分たちさえ良ければ次の世代は関係ないと考えるのではなく、次の世代にいま以上の価値や利益を残すためにはどうしたら良いかを考えることです。こうした価値観を、個人、大学、企業など皆で共有していかなければなりません。

佐々木 その通りだと思います。少子化による人口減少が進むなか、日本の未来は、若者の手に委ねられていると言ってよいでしょう。SNSなどを通じて、個人の意見の発信が社会に影響を与えるようになり、たった一人の行動が世界全体を動かす原動力になりえます。個人と社会全体がダイレクトにつながる時代、一人ひとりの行動が持つ意味はとても大きいと実感しています。

リベラルアーツ教育を通して「人生の構想力」を高める

総長 一人ひとりの行動という点に関してですが、立教大学では、「共に生きる」という教育目標のもと、リベラルアーツ教育を通して、自分の行動がいかに他人を幸せにするか、また、自分の考えや価値観がいかに世の中を良くするのかといったことを考えるきっかけを一貫して提供してきました。リベラルアーツとは何かといえば、私はこれを「モノの見方や考え方、人生の生き方を考え養う力」と捉えています。これは、佐々木先生が中心となり、キャリアセンターが注力するキャリア教育の理念にも通じると思っています。私は「自分はどういう世界で、どんな生き方をしたいのか」といった世界観と人生観を一致させるために自ら考え、そのギャップを埋めるために主体的に行動する力を「人生の構想力」と呼んでいますが、キャリア教育とは就職活動のための学びではなく、学生4年間のうちに、この力をどのように磨いていくか、さらにそれを磨くことで社会にどう貢献できるかを考え、問い続けることを目的としています。正課(授業)と課外活動を連動させながら、1年次の早い時期からすべての学部学生に対して、「人生の構想力」を養う機会を提供し続けているのが、立教大学独自の取り組みだと自負しています。
佐々木 キャリアセンターでは、「人生の構想力を備えた人材を育成する」というビジョンをしっかりと受け止め、日々学生に向き合っています。本学のキャリア支援は、すべての学びが一人ひとりの将来のキャリアにつながり、それが最終的に社会、人類への貢献につながるという考え方に基づいています。学生にとって、就職はたしかに人生の大きな転機ですが、就職がすべてではなく、卒業後もずっとキャリア・ディベロップメントが続いていくことになります。そこで、私たちは「キャリアの立教」「就職は人生のマイルストーン」というキーワードを使って、学生たちに就職やキャリアについての考えを伝えています。

伝統と革新を融合した教育で社会の要請に応える

総長 4月22日に、経団連と国公私立大学のトップで構成される「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」が「中間とりまとめと共同提言」を発表しました。この冒頭で、Society 5.0時代に求められる人材と大学教育において、「リテラシー(数理的推論・データ分析力、論理的文章表現力、外国語コミュニケーション力など)、論理的思考力と規範的判断力、課題発見・解決能力、未来社会の構想・設計力、高度専門職に必要な知識・能力が求められ、これらを身につけるためには、基盤となるリベラルアーツ教育が重要である」と明記されています。立教大学ではまさにこのリベラルアーツ教育を人生の構想力を備えるための手段として、伝統的に実践してきたわけですが、改めてその重要性が社会に認められると共に、その意義が共有されたことで、今後社会がどう変わろうと、これまで行ってきた教育について、より自信を持って追求していきたいと意を強くしました。また同提言では、今後の課題として、「AI人材や数理データ人材不足は深刻な状況にある」と明記しています。こうした社会の要望に応えるべく、立教大学は、2020年4月に日本初となるAI(人工知能)に特化した大学院である「人工知能科学研究科」を開設します。

佐々木 本学は、AI研究科の開設にあたって文理融合というコンセプトを打ち立てていますが、ここに立教大学の強みがあると感じています。「Society 5.0」という言葉で示される日本の未来社会は、デジタルデータ、AI、ロボティクスの活用などに支えられることになると予想されます。そうなると、デジタルデータとアルゴリズムが引き起こすイノベーションがどのように世界を変え、人類にどう貢献するかという部分が、今後、問われていくのではないかと思います。本学の研究科は、技術開発だけに特化するのではなく、リベラルアーツ、人文科学、社会科学といった幅広い分野を巻き込み、情報倫理、AIの社会実装、AIと人類の共存といったような大きなテーマについても探求していく。本学はそうした大きなビジョンを実現しようとしています。
総長 「リベラルアーツ×AIで真のグローバルリーダーを育成する」ことが、今後の立教大学の使命です。AIを理解して使いこなし、それを正しく社会に還元できる人材育成を研究科からスタートし、今後すべての学部においてもAIの知識や技術を学ぶ科目を提供していく予定です。従来のリベラルアーツ教育に、こうした革新的な教育を加えることで、真の意味でのグローバルリーダーを育成することができると考えます。さらにこれを社会と連携しながら実現していきます。

佐々木 キャリア支援の視点では、AIによって仕事や働き方がどのように変わるかというところに注目しています。文系理系を問わず、「Society 5.0」時代にふさわしい働き方を学生にイメージしてもらえるように、1年次から誰でも参加できるプログラムを実施しています。昨年度はIT企業の協力を得て、「私たちの働き方が変わる-AI人工知能の世界-」というテーマで開講し、本年度は、「データドリブン社会の到来」、「デジタル化する広告業界」、「沸騰するインバウンドビジネス」、「AIによるモビリティ革命」と、技術の最先端を見据えたプログラムを次々と展開しているところです。

大学と企業の対話を深めるため、企業にありのままの立教大学を知ってほしい

総長 この共同提言に、「Society 5.0時代に求められる人材と大学教育」とありますが、「求められるべき企業像」を加えてはどうかと考えます。大学は人をつくります。そして企業はより良い商品、サービスをつくります。この2つが融合し、協働してはじめて、新しい社会をつくることができるからです。このことをお互いが理解しなければ、一方通行的な押し付け合いになりかねません。まだ大学と企業の間にこうした対話が十分にされているとは言えない現状です。そのためこの共同提言がきっかけとなり、両者の対話が深まればいいと考えていますし、その中心的な役割を立教大学のキャリアセンターが担うことができれば素晴らしいと思います。今日の対談、そしてこれに続く学生インタビュー記事も含めて私たちが社会に向けて様々なメッセージを発信していることが、大学と社会のより良い関係を作るきっかけになればと考えています。

佐々木 キャリアセンターにも大きな期待が寄せられていると感じています。いま経済界では、採用活動について、従来の新卒一括採用に加え通年採用を導入すべきだという議論がなされています。こうした新しい採用の仕組みやルールづくりの際においても、大学対企業という対立構図ではなく、一緒に手を携えて取り組む姿勢がとても重要だと思っています。4年間の学生生活は、人としての根幹をつくる大切な時期にあたります。通年採用という名の下に、幹ができる前に学生を企業の論理で振り回し、就職活動の早期化、長期化が起きてしまっては本末転倒です。そのようなことが起きないよう、大学と企業が知恵を絞りつつ、多様な選択肢から最適な就職先を選べるような仕組みをつくっていくことが求められています。その前に、まず企業の方には大学の現場を見ていただきたいと思っています。授業やキャリアセンターのプログラムを見ていただくことが、対話のスタートになるのではないでしょうか。就職活動では見られない、個性豊かな学生の普段の様子をご覧いただけると思います。

総長 まずは立教大学のありのままの姿を見てほしいですね。企業による大学訪問を今後推進し、その場でそれぞれが対話を行う。学生の声も実際にインタビューしていただく。さらに様々な教職員とも議論していただく。こうしたことが出来れば「人生の構想力」を備えた学生の育成につながると思います。

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